蝶の名前


蝶の名前には、他の動植物と同じように、和名と学名が用いられる。

和名(Japanese name)
 地方によって、同じ蝶でも、いろいろの呼び名があるが、全国的に統一されたのが標準和名である。和名を命名するのに命名規約はないが、勝手に変更できない。標準和名は、殆どが納得出来る名前であるが、中には不適当な名前もある。例えば、タテハモドキ。モドキというのは、「似て異なるもの」の意味である。そこで、タテハモドキの意味は、「タテハに似ているが異なる」の意味になる。ところが、タテハチョウ科の名前は、あっても「タテハ」という和名の蝶はいない。また、矛盾する名前で近年変更されたものもある。ウスバシロチョウはシロチョウ科の蝶ではなく、アゲハチョウ科の蝶である。そこでウスバアゲハと変更された。 和名は、カタカナで記す事に決められている。平仮名や漢字で書く事は許されない。蝶では見られないが、学名を、そのまま、カタカナで書く場合もある。
例: パラメキウム・カウダツム (原生生物のゾウリムシの学名)
  Paramecium caudatum

学名(英語:scientific name ラテン語:binomen, binomina)
 学名は「分類学の父」と云われるスウェーデンの博物学者カール・フォン・リンネ(Carl von Linné:1707-1778)によって創設された。その表記はラテン語、またはギリシャ語の単語に由来する例が多い。ラテン語化した他国語も用いられる。
 動物には、「国際動物命名規約」、植物には「国際植物命名規約」、細菌には、「国際細菌命名規約」がある。各々少しずつ異なる。ウイルスには学名はない。 その基本は、属名、種名からなる(二名法)。大切なことは、1種の生物には、世界的に共通する学名は1つしかないことである。動物の学名の完全な記述方法は、動物の種類を属、 種小名(亜種名)、命名者名、命名年号を表したものである。例えば、
ナガサキアゲハ Papilio memnon Linnaeus, 1758
Papilioは、アゲハチョウ科の中のパピリオ属、memnonは、種類、Linnaeus, 1758は、Linné をラテン語化したもので、Linnéが1758年、新種として発表した事を意味する。その他の命名者の名前は、そのまま用いている。
例:Butler,Matsumuraなど。
 亜種という概念がある。別種とする程違ってはいないが、差が見られる場合に亜種とする。地理的に隔離されている場合に用いられる。日本のナガサキアゲハは亜種として認められており、次の学名が用いられる。
Papilio memnon thunbergii von Siebold, 1824
亜種が認められると、最初新種として命名されたものは、名義タイプ亜種となり、学名は変わらない。Papilio memnon Linnaeus, 1758 =名義タイプ亜種
 命名者、年号に括弧( )が付いている場合がある。例えば、モンキチョウColias erate (Esper, 1805) これは、Esperが1805年、最初に命名発表したが、後で誰かが再分類した事を示す。このような意味があるので、勝手に括弧をつけたり、外したりしては、出来ない事を知っておく必要がある。この事は、あまり守られていない。
 Papilio memnon thunbergii , Colias erate (Esper)
または、Colias erateのように、命名者、年号は省略してよい事になっている。しかし括弧は省略出来ない。
 ラテン語の意味はギリシャ神話等に由来するなどが多く、日本人には分かりにくい。また、意味不明のものもある。しかし、japonica, daimio(大名)、 geisha(芸者)など日本語由来のものもある。
 属名は大文字で始る。種小名は人名であっても、必ず小文字で始る。
例:Favonius yuasai yuasa=Yuasa(湯浅)
 属名、種小名は、斜体(イタリック体)で記す。これは、欧文文章の中で、分かりやすくするためである。斜体で記す事は規定されてはいないが、殆どは斜体で書かれている。
 学名の読み方にも規定はない。ラテン語であるから、ラテン語の発音でなければならないとの主張があるが、英語読み、或はドイツ語読み、フランス語読み等の母国語読みされている場合が普通である。

新種の発表
 規定通りに学名をつけて発表するには、公的出版物に発表する必要がある。記載の言語に規定はないが、英語が用いられるのが普通である。講演、ポスター、電子媒体などに発表しても認められない。新種として発表しても、その種に既に学名が付けられていたら、同物異名(synonym)となり新種として認められない(有効名とはならない)。また、その学名が他の種類に用いられる場合は、異物同名(homonym)として有効名とはならない。
 新種発表には1個体の新種発表のもとになった模式標本、複数の副模式標本を保存しなければならない規定がある。亜種は新種として認められる。

先取権
 新種発表は早いが勝ちである。最初の発表だけが認められ、後の発表は同物異名(synonym)となってしまう。1日でも早く発行された雑誌に先取権がある。同一雑誌に同時に新種発表論文が掲載された場合、前のページの発表に先取権がある。