ヒナモロコ コイ科 絶滅危惧ⅠA類 | |||
![]() 1993.4 飼育個体 中嶋秀利氏提供 | |||
学名 | Aphyocypris chinensis | 大きさ | 6cm |
地方名 | めだか | ||
生息域 | 細流、用水路、ため池・クリーク | ||
内容 | ヒナモロコは国内では北部九州にのみ生息するとされる絶滅危惧種である。カワバタモロコによく似るが、こちらの方が体高が高く体幅も薄く、全体的に平べったい。ヒナモロコはむしろ寸胴である。また、カワバタモロコの腹ビレと尻ビレの間の腹縁は竜骨状の突起になっており、腹部の後半の肋骨は浮き出ていることが多い。体側には3 本の点列が大きく腹側へ湾曲している。これに対してヒナモロコは全体に地味で、体側の黒色点列は斜め後方に直走する。 カワバタモロコが周年、ため池に生息するのに対して、ヒナモロコは用水路や流れの緩やかな細流に生息し、冬はため池で越冬する。福岡市近郊では、このような水田地帯はとうの昔に宅地化され、水路は埋め立てを免れていても排水溝と化しており、天然水域では絶滅したと考えられていた。しかし、1994 年11 月29 日に福岡県田主丸町の用水路で80 尾が捕獲され、保護増殖の努力がなされている。 県内では、過去には筑後川、巨勢川、多布施川、城原川、松浦川に記録があるが、それ以降の確認例はない。県内でもヒナモロコの好む両側からヤナギや草の垂れ下がった様な細流は見られなくなってしまったが、何とか生き残っていて欲しいものである。 野中繁孝氏は佐賀自然史研究第18号(2013)で佐賀平野のヒナモロコの記録をまとめている。それによると久留米医学会雑誌の1968 年12 月の佐賀市の記録の「上多布施町(屠蓄場南)」は現在の多布施三丁目と六座町・伊勢町との境界にあたる水路であることのほか、新たな捕獲記録として1966 年夏の千代田町下黒井の民家地先にもうけられた洗い場でのニッポンバラタナゴに混じっての捕獲、1971 年4 月12 日の神埼町横武の細流における捕獲、千代田町姉で1971 年 ~ 1972 年にかけて行った調査の中での捕獲の3件の捕獲例を明らかにしている。とくに、千代田町姉の調査地点付近のクリークについては「幅が2 ~ 15m、深さが1.5 ~ 3m、透明度は0.7 ~ 0.8m で岸辺にはマコモやヨシが密生し、夏季にはホテイアオイ、ハス等が繁茂していた」と当時の環境まで具体的に記述し、さらに1970 年代初頭までは県東部の佐賀市、神埼町、千代田町、三根町の広い範囲に生息していたと推定している。県内における本種の状況は「過去50 年間前後の間に、信頼できる生息の情報が得られていない」という野生絶滅とするための要件を満たしつつあり、実に貴重な記録である。 現時点で唯一の生息域である田主丸町では、水田へ遡上するための魚道を備えた細流と小さなため池を備えた小さな水域が「ヒナモロコ水路」として整備されている。 | ||
![]() 1993.4 (同上) 中嶋秀利氏提供 |