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魚の地方名


力丸喬之(佐賀市)


 テレビもあまり普及していなかった昭和30年代の中頃だったと思う。当時人気のラジオのクイズ番組「私は誰でしょう」か何かで、「カワクジラとは一体何でしょう」という問題が出た。

 その頃、私は魚貝類の地方名を集めていたので我が意を得たりとばかり小躍りしたものだが、各界の知名士が顔を揃えた回答者から正解はなかった。

 その後、縁あって佐賀の地へ来て以来、ずっと「川鯨」のルーツを探してきたが、いまだに不明のままである。

 おそくなったが、正解は「メダカ」のことで、澁澤敬三著「日本魚名集覧(昭和17年)には佐賀県三養基郡鳥栖町鳥栖でこう呼ぶとある。何とユーモラスな呼び名ではないか。

 なお、この書には2,700以上ものメダカの地方名が集められており、昔の日本人がメダカを仲介に、いかに自然に親しみ、自然を慈しんでいたかがわかる。

 さて、魚貝類の名前には学会で決められた世界共通の「学名」(ラテン語またはギリシャ語で表記)と日本国内で共通の「和名」(「標準和名」ともいう)がある。しかし、一般には地方特有の名前(「地方名」または「方言」)で呼ばれることが多い。

 魚食国であるわが国は魚貝の地方名が非常に多く、さらに、名前は同じでもまったく別種のものだったり、同じ種類のものが別の名前で呼ばれたりで、魚を調査研究していると混乱することもしばしばだ。

 魚貝の名前は、そのものの色や形、雌雄・幼成、生態・習性に由来するもの及びその転化したものが多く、名前の起源をたどるとなかなか味わい深いものがある。

 最近は流通の広域化、遊漁の広域化、さらには魚貝類に関する情報・知識の普及に伴って、今までなかった名前が使われるようになった反面、地方独特の名前が使われなくなっていくと同時に、魚貝にまつわる地方の民話伝説や故事来歴が語られなくなっており、一種の地方文化財が消えていくようで非常にさびしく思っているところである。


(りきまる・たかし、佐賀県物産振興協会佐賀支部事務局長)