1983年11月23日香港で行われた学会の昼休みを利用して、会場のエクセルシアホテルのすぐ近くにある市内のCauseway Bayに面したビクトリア公園に行った。天候は快晴で、ちょうど九州の5月の終わりのような気候であった。ビクトリア公園は日比谷公園の約2倍の大きさといわれており、香港市民のレクリェーションの場でもある。
公園内の花が咲いている場所を探しているうちに、Omega Clockと書いてある花時計のところに来た。花時計の周辺の花にスジグロカバマダラがいるのを発見した。よくみると、花壇の中に、さらに2、3頭いる。柵があって中には入れない。仕方がないのでその花壇の上の方が丘になっているので、回り道をして丘の上に登る。そこには低い木々が植えられており、シロオビアゲハが飛んでいた。突然、ツマベニチョウが飛来してきて、頭上高く舞上がって行った。いつも、力強く飛ぶこのシロチョウをみるとつくづく南国にきたなあと思う。遠くの方にセセリチョウの類が2、3頭飛んでいるのを目撃する。
この公園内では採集はできないし、また、、当日はカメラも持参していなかった。バードウォッチングに対してバタフライウォッチングという言葉は聞かないが、初めての土地、とくに外国に来て採集はしなくても、飛来する蝶を見るだけでも結構楽しいものである。それでしばらくの時間、この公園にどんな蝶がいるか野外観察することにする。
シロオビアゲハが次々にこの丘の上に飛来する。小型の個体が多いようだ。ときどき、Catopsilia属の蝶、多分ウスキチョウの類が飛来するが、ツマベニチョウのように力強く飛ばない。キチョウ属(Eurema)の種も2、3頭目撃した。ルリマダラ属(Emploea)の蝶も時々飛来した。ミスジチョウ属(Neptis)の蝶は1頭だけ目撃したにすぎない。低い木立の上をアゲハが舞い上がる。
多分、オナシアゲハと思われるが、ミカドアゲハのようにみえないこともない。ただ、ミカドアゲハとすれば、もう少し青色を帯びていてもいいのではないかと思ったりする。そのうち、近くに来たのでよくみるとオナシアゲハであった。
こうして時間を過ごしているうちに、2頭のシロオビアゲハが求愛行動をしながらゆっくり近づいて来た。眼の前をゆっくり飛び、手でつかまえられる所まで近寄って来た。なかなか得られないシャッターチャンスであったが、残念なことにそのときカメラを持参していなかった。その後、チャバネセセリ群の一種と思われるセセリチョウ1頭が眼の前の近くの葉に止まった。静かに手を差し出しても逃げようとしないので、示指を脚の下にもってゆくと、蝶が指に乗り移ってきた。しばらくの間、指の上にこのセセリを乗せて楽しんだ。
公園に来てから約1時間以上このように飛来する蝶を見て楽しんだ。帰りに、同公園内で1頭のタテハモドキと1頭のアカホシゴマダラらしい蝶を目撃した。
翌1983年11月24日、フリーの日であったから10時過ぎに再びビクトリア公園に歩いて行った。もちろん、今回は愛用のカメラを持参した。
本日も快晴。九州の初夏のような気候であった。公園に入って、真っ直ぐに例のOmega Clockの花壇の前に行く。赤い花にスジグロカバマダラが来ていた。花壇の中には他に2、3頭の蝶が花に止まっている。花壇の中には入れないので、遠くからこれらの蝶を撮影するか、蝶がこちらに近寄ってくる機会を待つ以外はない。今まで、蝶の近接撮影のみ行ってきたが、少し離れた所からの撮影もときにはいいだろうと思って数回シャッターをきる。花壇の中には、ヤマトシジミのようなシジミの類もいたが種類は確認できなかった。
Clockの上方、つまり丘の上に登って蝶を探す。シロオビアゲハがいたが、シャッターチャンスはない。昨日と同じく、ツマベニチョウとCatoPsilia属の蝶が時々飛来する。再び、丘を下って、Omega Clockの花壇の入口に来た。鉄柵のすぐそばの花にスジグロカバマダラが来ていたので、そっと近づいて鉄柵の間から数回シャッターをきった。花壇の奥の方をみると、リュウキュウアサギマダラか、Tirumala属の蝶が1頭いるではないか。しかし、どうしても撮影するには距離があり過ぎる。近付いてくるのを待つことにする。しばらくねばっていると、数メートルのところに来たのでシャッターをきる。
また、花壇の上の丘に登る。Catopsilia属の蝶1種が飛来して花に止まったので、近づいて撮影した。そのうち、昨日と同じように、2頭のシロオビアゲハが求愛行動しつつ、ゆっくり飛来し、近くの葉に止まったので急いでシャッターをきる。1回しかシャッターチャンスがなかったが、うまく撮れていることを期待する。ツマベニチョウが葉に止まった。近付いたが、逃げられてしまう。次に、例のリュウキュウアサギマダラか、コモンアサギマダラ属Tirumalaの1頭が近くに来て止まった。何回もシャッターチャンスがあった。
その後しばらく丘の上にいたが、12時の大砲の音ドンを聞いて公園を去った。以上で、この2日間、目撃した蝶の種類は少なかったが、結構楽しい時間を過ごすことができた。
(佐賀の昆虫No.14)