「蝶と蛾は、どこが違うのですか」これは、よく受ける質問である。結論から先に述べると、確かに、幾つかの点で、両者は異なるが、絶対的な違いはない。両者は分類学で、チョウ目(Lepidoptera)に入り、むしろ蝶は蛾の種類とも云える。その主な特徴と例外を述べよう。
確かに、蝶は昼活動し真夜中だけ活動する種類はいない。「夜の蝶」は自然界には存在しない。しかし、ジャノメチョウの仲間やセセリチョウの仲間も夜飛ぶ事はある。多くの蛾は夜活動するが、昼活動する蛾も少なくない。とくに、イカリモンガは昼活動し花などに止まる。
蛾は、よく電灯にくる。しかし、蝶の仲間でも、電灯に来ることはある。著者は、外国でウスキシロチョウが電灯に来たのを見たし、サトキマダラヒカゲが、同じく電灯に来て長時間止まっているのに遭遇した。ただし、蝶は、めったに電灯には来ないのは確かである。
タテハチョウの仲間の多くは翅を開いて止まる。とくに、イシガケチョウは、必ずと云っていい程、翅を開いて止まる(翅を閉じて止まるのは見た事がないが、翅を閉じることもあるらしい)。前記のイカリモンガは、翅を閉じて止まるので、よく蝶に間違われる。
これが一番簡単な見分け方である。蝶の触角は、セセリチョウ類を除いて、こん棒状である。一方、蛾の触角は、先が尖っているか、櫛状である。日本の蝶には、この区別が全て当てはまる。だだ、南米に分布するカストニアCastnia evalthe Fabricus,1775という蛾は、昼間、花から花へ飛び回り、こん棒状の触角を持っている。この種を蝶としている研究者もいると云う。
「翅棘」は、前翅と後翅を一緒に動かすために、両翅を.ぐ、後翅の基部から突出している棘である。蛾はこの「翅棘」を持っている。蝶は、この棘の代わりに後翅の前縁が突出している。しかし、この「翅棘」を持たない蛾もいる。オーストラリア産の色彩が派手なラッフルズセセリEuschemon rafflesia(Macleay, 1827)の雄だけは、この「翅棘」を持つと云う。しかし、蛾や蝶を捕まえて、観察しなければ分からない。
英語では、日本語のように、蝶と蛾は区別して、蝶butterfly, 蛾mothと呼ぶが、ドイツ語では、通常、両者を区別せずに、Schmetterling あるいはFalterと呼ぶ(これはチョウ目に相当する言葉)。しかし、区別するときには、蝶には、「昼Tag」を付けて、Tagschmetterling, あるいは、Tagfalter、蛾には「夜Nacht」 を付けてNachtschmetterlling, あるいはNachtfalterと呼ぶのが一般的だそうである。英国(多分、オーストラリアも)では、セセリチョウ科は、蝶に含めない。skipperとして別に扱われている。