この本を手にされた方は、身近な淡水魚も意外に美しいと感じられた方も少なくないことと思う。実際、私の周りにもその魅力にとりつかれてしまった人も多い。今まで、なぜその美しさに気付かなかったのであろうか?それは釣り上げられたいわば「陸に上った魚」か、魚を狙う天敵のように水面上から見ていたからである。つまり、魚の美しさを知るためには、魚と同じ目の高さから見ることである。そのためには、水槽で飼育してみることが一番である。
天然の川や湖では、植物性プランクトンが光合成を行って増殖している。これを動物性プランクトンが捕食する。動物性プランクトンは小魚に捕食され、小魚はより大型の魚に捕食される。このように生物が「食う-食われる」の関係でつながっていることを「食物連鎖」という。実際には、これらの生物の排出物や遺体(有機物)がバクテリアなどによって分解され、無機栄養(肥料)として植物性プランクトン等に吸収され、再び「食物連鎖」に取り込まれ循環(リサイクル)しているのである。つまり、物質は消滅するのではなく形を変えて存在し続けるのである。
水槽で魚を飼うということは、単に水を入れた容器に魚を入れるということではなく、先に述べたような生物間の循環の一部を切り取って屋内に持ち込むことだと考えるべきである。理論的には池の水と砂を水槽に入れ、水草と水槽壁の藻を食わせるための巻き貝を入れてやれば、餌どころか手入れの必要もないバランスドアクアリウム(永久水槽)ができるはずである。
実際には、理論通りにはいかないが、このバランスドアクアリウムの理論を理解していないと過度な給餌や世話、または、放任につながってしまい、結局「魚の飼育は難しい」ということになりかねない。
バランスドアクアリウムの問題点は、飼育できる魚の数は少ないことである。水槽の中にメダカが1尾では一体何を飼育しているのか分からなくなってしまう。しかしそこには人間が手助けすることで、飼育できる魚の数を増やすことができる。
魚を増やすと、まず餌と溶存酸素(水に含まれる酸素)が不足する。餌については日本の淡水魚の多くは雑食性なので餌は金魚やコイの餌を与えればよい。溶存酸素についてはエアポンプやろ過器で対処できる。しかし、しばらくたつと魚自身が排出した有毒なアンモニアによって魚の調子が悪くなってくる。
このアンモニアは砂やろ過器などの中にある種のバクテリア(硝化細菌)が繁殖していると、彼らが硝酸に作り替えてくれることで減少させることができる。硝化細菌によって生じた硝酸は水草の肥料となるのだが吸収量にも限界があるため、飼育する魚の量、つまりは餌の量にもよるが1~4カ月おきに水換えを行うことで除去する。
大きな水槽は非常に高価であるが、小さな水槽は水の量が少ないため温度や水質の変化が大きく管理が難しい。コストパフォーマンスを考えると、最も普及している60cmのガラス水槽がよい。また、ろ過器、蛍光灯もセットで購入することを進める。できれば、恐ろしい白点病に備えてヒーターや小さなすくい網、魚薬(何にでも効く薬は効果は何にでも今一つと考えた方がよい)。全部合わせても普及品ならば1万円程度でそろうはずである。
日本の淡水魚のほとんどは雑食性なので、一部を除いては市販のコイや金魚の餌で十分である。動物食性の魚の多くも、慣らせばコイの餌を食べるようになる。ペットショップには様々な種類の餌が売られているが、魚の口に入る大きさなら問題は起こらない。大きすぎる場合にはそれを砕いてやれば事足りる。汎用性を考えると、浮上性の餌よりも沈降性の餌が望ましい。こちらならばハゼ科等の底生魚も食べることができるし、小さな魚もふやけてから食べることができる。割高になるが、テトラ社のシュテープルフードは慣れない魚でも比較的食いがいい。また、冷凍赤虫はほとんどの魚が食べるので万一に備えて冷凍庫に保管しておくのもいい。
餌の量は、数分間で食べてしまう量を1日に2~3回やるのが基本である。水温や魚の量によって異なるので、特に決まった量はない。毎日観察して、やせていなければ良しと考えてよい。むしろ、おびえていたり、餌が合わなくてほとんど食べていないときに無駄に餌をやる方が、はるかに害が大きい。同様に死魚もすみやかに除去しないと、腐敗して水質を悪化させる。
水槽壁を掃除してもすぐに藻がついたり、透明度が良くても水が黄ばんできたら水換えを行う。水換え時には、上面ろ過器のフィルターウールも手もみ洗いする。年に1回は砂も洗うことが望ましい。水を全量交換するのでなければ、水道水をそのまま使っても差し支えない。しかし、湯ざましや井戸水等の場合、水温の変化が大きかったり、溶存酸素が欠乏していたりと問題があることが多いので注意を要する。
魚にはそれぞれ適した環境があり、同じ様な環境には同じ様な魚しか生息しない。よって、目的の魚の習性をよく調べておく必要がある。魚種や時期、河川によって捕ってはいけない魚、漁法、禁漁区、禁漁期があるので、該当する河川の内水面漁協等に連絡し確認を取っておくこと。手網で捕れた小魚を大きく育てた方が、慣らしやすく愛着もわくものである。
また、ドンコやヌマチチブなどは危害を加えるので、他の魚と同じ水槽では飼育できない。オヤニラミにいたっては希少な魚である以前に、個人レベルでは単独飼育しかできないので遠慮したほうが無難である。また、魚食性の魚や、アユのように特殊な餌しか食べないものも飼育は難しい。逆に、成長しても5cmほどにしかならない魚は群で飼育した方がよい。こうしたことを考えて持ち帰るようにすべきである。
持ち帰る時には、欲張らずに少数ずつ持ち帰るのが基本である。乾電池式のエアポンプを取り付けたふた付きのバケツを準備しておくと数時間は大丈夫である。釣具屋で生き餌を運搬するための容器を購入するのもよい。いずれにせよ、新鮮な水を入れて運ぶのだが、氷などで急激に水温を下げることはかえって危険である。
「魚の飼育は難しい」と思われている人が多いのは確かである。その多くは、かつてあやしげな水槽で金魚の飼育に失敗した経験からきたものが多い。ろ過器付きのちゃんとした水槽であれば、以下にあげる初期死亡の原因の4つのポイントに注意すれば、魚の飼育は小鳥より簡単であることが実感できることと思う。