電子書籍化にあたって

[佐賀の蝶]が出版されたのが1993(平成5)年であるから、あれから、もう20年以上も過ぎた。佐賀県の蝶については、この20年の間に、種の絶滅、普通種の個体の減少、迷蝶の飛来など、かなり変化してきた。[佐賀の蝶]は改訂が必要だと思っていた時、佐賀県立図書館の企画で、「佐賀の自然デジタル大百科事典」の一環として本書を電子書籍化して頂くことになった。

今回、[佐賀の蝶]電子書籍化を機会に、未掲載の種の追加、現在の知見など一部加筆した。また、学名も命名者の発表年号まで記入した。蝶の配列順位および学名は、白水 隆著「日本産蝶類標準図鑑学習研究、2006」に従った。初版の出版までは、蝶を積極的に撮影する人はプロを含めて、そんなに多くはなかった。また専用のレンズも広くは普及している状態ではなかった。

ところが現在は、操作が簡便な、性能のよい安価なデジタルカメラが普及したことに加え、携帯電話やiPadなどで、誰でも容易に花や蝶が撮影出来るようになった。さらに、従来のフィルムカメラでは、同じ対象を何回も撮影する事は、フィルムの値段から、経済的にも困難であった。

今日のデジタルカメラは撮影したら自動的にSDカードに保存され、気に入らなければ消去して、何回でも使用出来るので、極端に云えばSDカード1枚あればよいので、シャッターを押す回数を気にしないでもよい。また、シャッター速度や絞り値は気にすることなく、フォーカス(ピント)もカメラが設定してくれるオート撮影機能が付いているので撮影が非常に簡単になった。勿論、これらのカメラを用いての撮影でも、良い写真を撮るのは技術を要し、プロ級の撮影は困難であるが、カメラ任せで、それなりの写真が撮影出来るので、蝶撮影が普及したと思う。インターネットでホームページを見れば、多くの蝶の写真が見られ、中には見事なものやプロの撮影もある。

私は2000年頃までは、フィルムカメラの200mm.MicroNIKKORで蝶を撮影していた。その後は、デジタルカメラによる撮影に変わり現在は、Nikon D3100, レンズ AF-S DX Micro NIKKOR 85mm f/3.5G ED VRを主として使用している。また補助的に、Canon IXY 200, COOLPIX P520でも蝶撮影をしている。このような時期に、本書の電子書籍化を行うのは、躊躇されるが、全く意味がない訳ではない。蝶を撮影するようになった動機は、初版に記したので、繰り返しては述べないが、次の和歌に要約される。

天津風 雲の通路 吹きとぢよ をとめの姿 しばし留めむ 僧正 遍照

蝶は、この大自然が与えてくれた、素晴らしい美しい贈り物である。このはかない美しい姿を写真として止めたい、の想いから撮影を続けてきた。昆虫や蝶に魅力を感じるようになると、初めて見る種類や珍しい種類に遭遇した時の、昆虫少年の驚きと感激は絶大である。この興奮を残しておきたいとの思いで書いたのが本書である。また山野で出合う蝶の種類を列記し、自然への関心が高まるように配慮した。身の回りの蝶に興味を持ち始めると、他所にはどんな種類の蝶がいるかと関心を抱くようになる。そこで、著者が経験した範囲で他県の蝶も記した。

佐賀昆虫同好会員 溝上誠司氏によると、1924年から2014年までに、佐賀県からは迷蝶を含めて104種の蝶が記録されている。この中で、県内80種(県外20種)の蝶の写真を掲載した。また著者が撮影した英国、米国、タイ国、香港、マレーシア、グアテマラの蝶の写真も含めた。本書は種名同定のための図鑑を第一の目的として執筆したものではないが、蝶に興味を覚え始めた少年少女にも、役立つようにとの要望に沿って種類を推定出来るように企画した。蝶は、一部を除いて各種類の特徴がはっきりしており、本書が種名の推定に役立つと思う。しかし、確実な種名の同定は、図鑑を調べるなり、蝶に詳しい人に相談するなりされる事をお勧めする。

今回、私の、これまで書いた「虫に関する随筆」も挿入させて頂いた。これも合わせて読んで頂ければ幸せである。今回の電子書籍化にあたり、佐賀県の蝶について、種々ご教示を頂いた、前佐賀昆虫同好会会長 市場 利哉氏、同会会員 溝上 誠司氏、古川 雅通氏、坂井 文雄氏、廣川 典範氏に厚く、お礼を申し上げる。また、今回新たに貴重な写真を提供頂いた、坂井 文雄氏、古川 雅通氏、同会会員 針貝 邦生博士に感謝する。なお、以前、著者が「大塚薬報」に連載した、「無視できぬ虫のはなし」の転載許可を頂いた「大塚薬報」編集長 松山真理氏に、お礼を申し上げる。さらに、貴重な標本の写真の掲載を許可されたAustralian Butterfly Sanctuaryに感謝する。また、図の一部の転載を許可された小学館に感謝する。著者が「医界佐賀」に掲載した写真の転載を承認頂いた佐賀県医師会に感謝の意を表する。最後に、電子書籍の企画・制作に携わられた株式会社ドミックアルファ並びに佐賀県立図書館の皆様にお礼申し上げる。