堀の近くに暮らす人々にとって、雨後の楽しみの一つに「アガイイオトリ」があった。6月がコイ、フナの禁漁期間となる以前は、この梅雨の時期が「アガイイオトリ」の最盛期だった。
「アガイイオ」というのは「上がり魚」の意味で、かんがい用に堀を満水にした5月中ごろから、雨がたくさん降る日に、堀の魚が岸のメラクチ(水口)から、水田に向けて、よく上りこむ。メラクチつまり水の落ち口は、たいてい夏に水車をかけて水田に水を踏み込む場所となっている。雨で水田にあふれる水が落ちている時、ここを玉網(タモ)ですくえば、コイ、フナ、ドジョウなどが捕れた。またメラクチの下にウナギウケを仕掛けてもよかった。水の落ち口は溶存酸素やえさが豊富で、しかも水田は産卵場所として堀の魚が入り込んでいった。
また堀端の夜は、「夜振(ヨボイ)」と称してたいまつやカーバイトランプ片手に「アガイイオトリ」に出かける楽しみもあった。玉網ですくうほか、狙いを定めてヤスで突く攻撃的なものも。闇夜にあっちこっちにたいまつの火が入り乱れる情景は、村の子供に哀愁と驚異の感情を与えたという。